近年、採用を取り巻く環境は大きく変化しています。少子高齢化による労働力人口の減少、採用手法の多様化、専門人材の需要増加など、企業の採用活動は新たな局面を迎えています。
こうした中、注目を集めているスクラム採用について、スクラム採用の基本からメリットデメリット、成功させるポイントなどを詳しく解説します。
スクラム採用とは?
スクラム採用とは、従来の採用手法とは一線を画する新しい採用手法です。現場の従業員が採用プロセスに深く関わることで、より適切な人材を見極め、獲得することを目指します。

スクラム採用の特徴
スクラム採用の最大の特徴は、現場の従業員が採用プロセスの中心的な役割を担うことです。採用担当者だけでなく、実際に候補者と働くことになる現場の従業員が、求人票の作成から面接、内定者フォローまで、様々な採用業務に関与します。
このように、現場の従業員が採用に積極的に参加することで、自社の業務内容やカルチャーにマッチした人材を見極めやすくなります。また、候補者にとっても、実際の職場の雰囲気や働く人たちの様子を知ることができ、入社後のミスマッチを防ぐことにつながります。
リファラル採用とスクラム採用の違い
リファラル採用とスクラム採用は、どちらも従業員が採用プロセスに関与するという点で似ていますが、その目的と範囲が異なります。
リファラル採用では、従業員が自身の知人や友人を候補者として推薦することに主眼が置かれています。一方、スクラム採用では、従業員が推薦するだけでなく、求人票の作成から面接、内定者フォローまで、採用プロセス全体に関与します。
また、リファラル採用では、従業員は受動的に候補者を紹介する役割を担うのに対し、スクラム採用では、従業員自らが能動的に採用活動に参加し、採用の成功に向けて尽力します。
スクラム採用の具体的な進め方
それでは、スクラム採用を導入する際、具体的にどのように進めていけばよいのでしょうか。
まず、採用担当者は、現場の従業員に対して、スクラム採用の目的や意義を丁寧に説明し、理解と協力を得ることが重要です。その上で、従業員が採用活動に参加しやすい環境を整備します。例えば、採用関連のタスクを業務の一部として位置づけ、適切な時間を割り当てることなどが考えられます。
次に、採用プロセスごとに、従業員の役割を明確にします。求人票の作成では、現場の従業員が業務内容や必要なスキルを詳しく記載します。面接では、候補者の専門性やポテンシャルを評価します。内定者フォローでは、入社までの不安を払拭し、スムーズなオンボーディングをサポートします。
このように、採用担当者と現場の従業員が緊密に連携し、それぞれの強みを生かしながら採用活動を進めていくことが、スクラム採用の成功の鍵となります。
なぜ今スクラム採用が注目されているのか
近年、スクラム採用への注目が高まっています。その背景には、採用を取り巻く環境の変化があります。ここでは、スクラム採用が注目される理由を3つの観点から探ります。
激化する採用競争への対応
少子高齢化が進む日本では、労働力人口の減少が大きな問題となっています。優秀な人材の獲得をめぐる企業間の競争が激化し、採用難の時代を迎えています。

このような状況下で、従来の採用手法では限界が見え始めています。採用担当者が一方的に候補者を選考するのではなく、現場の従業員が採用プロセスに関与することで、候補者との接点を増やし、自社の魅力を伝える機会を広げることができます。
また、スクラム採用では、現場の従業員が自分たちの仲間を選ぶという意識が高まります。その結果、自社にマッチした人材を見極める目が養われ、採用の精度が上がることが期待されます。
多様化する採用手法への適応
インターネットの普及により、採用手法は多様化しています。企業は、求人サイトや sns、自社サイトなど、様々なチャネルを駆使して候補者にアプローチします。
しかし、採用担当者だけでは、すべてのチャネルに目を配ることは難しくなっています。そこで、現場の従業員が採用活動に参加することで、より広範囲にわたって候補者との接点を持つことができます。
例えば、従業員一人ひとりが自身のソーシャルメディアで求人情報を発信したり、知人に声をかけたりすることで、採用担当者だけでは届かない候補者に到達することが可能になります。
専門性の高い人材確保の必要性
ビジネスの高度化・専門化が進む中、特定分野に精通した人材のニーズが高まっています。
実際に、厚生労働省の「有効求人・求職・求人倍率 (令和 4年 6月)」を見てみるとエンジニアや医師などを含む専門的・技術的職業の求人倍率は、平均と比べ高くなっています。

しかし、採用担当者が候補者の専門性を正確に判断することは容易ではありません。
スクラム採用では、現場の従業員が候補者の専門性を評価します。同じ分野で働く者同士だからこそ、候補者のスキルやポテンシャルを的確に見極めることができるのです。
また、専門性の高い人材は、自身の専門分野で活躍したいと考える傾向があります。現場の従業員と直接対話することで、自社で専門性を発揮できる環境があるかどうかを判断しやすくなります。
スクラム採用のメリットと期待される効果
スクラム採用には、従来の採用手法にはない様々なメリットがあります。ここでは、スクラム採用を導入することで期待される4つの効果を紹介します。
ミスマッチの防止と適材適所の実現
スクラム採用の大きなメリットの1つは、ミスマッチの防止です。現場の従業員が採用プロセスに関与することで、候補者と実際の業務とのマッチング度合いを高められます。
従来の採用手法では、採用担当者が候補者の経歴や面接での受け答えをもとに判断することが多く、実際の業務で求められるスキルや人物像とのズレが生じるリスクがありました。
一方、スクラム採用では、現場の従業員が候補者の専門性や適性を多角的に評価します。また、候補者も現場の従業員と直接対話することで、自身のスキルや経験が活かせる環境かどうかを判断しやすくなります。
その結果、入社後のミスマッチが減り、早期離職のリスクを低減できます。さらに、適材適所の配置が実現し、従業員の能力を最大限に引き出すことが可能になります。
従業員エンゲージメントの向上
スクラム採用のもう1つの大きなメリットは、従業員エンゲージメントの向上です。採用プロセスに関与することで、従業員は自社の価値観や魅力を再認識する機会を得られます。
自分たちが候補者を評価し、仲間として迎え入れるという経験は、従業員の当事者意識を高めます。また、自社の強みや独自性を候補者に伝える過程で、従業員の自社に対する理解と愛着も深まります。
加えて、スクラム採用では、部署や職種を超えた従業員間のコミュニケーションが活性化します。採用という共通の目標に向かって協力し合う経験は、組織の一体感を醸成する効果があります。
優秀な人材の獲得につながる
スクラム採用は、優秀な人材の獲得にも寄与します。現場の従業員が自ら候補者にアプローチすることで、採用担当者だけでは届きにくい優秀層にもリーチできます。
例えば、現場の従業員がソーシャルメディアで自社の魅力を発信したり、業界イベントで候補者と直接対話したりすることで、パッシブな候補者の興味を引くことができます。
また、スクラム採用では、候補者と現場の従業員が早い段階から深く関わることで、お互いの理解が深まります。その結果、自社にマッチした優秀な人材を見極め、獲得できる確率が高まります。
優秀な人材を確保することは、企業の競争力強化に直結します。スクラム採用は、人材獲得競争を勝ち抜くための有効な手段と言えるでしょう。
採用担当者の負荷軽減
スクラム採用は、採用担当者の負荷軽減にも寄与します。従来の採用手法では、採用担当者が採用プロセスのほとんどを一手に引き受けており、大きな負担となっていました。
スクラム採用では、現場の従業員が採用業務の一部を担うことで、採用担当者の業務量を適度に分散できます。例えば、求人票の作成や面接の一次対応などを現場の従業員に任せることで、採用担当者は採用戦略の立案や全体の進捗管理に注力できます。
また、スクラム採用では、現場の従業員が候補者との接点を持つことで、採用担当者の負担が減ります。候補者からの質問や相談に現場の従業員が直接対応することで、採用担当者の業務を効率化できます。
採用担当者の負荷が軽減されることで、採用業務の質の向上や、採用以外の人事業務への注力が可能になります。結果として、人事部門全体の生産性向上につながることが期待されます。
スクラム採用を導入する際のデメリット
スクラム採用には多くのメリットがある一方で、導入する際のデメリットにも目を向ける必要があります。ここでは、スクラム採用を導入する際の3つの主なデメリットを紹介します。

現場従業員の負担増加
スクラム採用では、現場の従業員が採用プロセスに積極的に関与します。しかし、そのことは従業員の負担増加につながる可能性があります。
従業員は本来の業務に加えて、求人票の作成や面接対応など、採用関連の業務を担うことになります。特に、採用活動が集中する時期には、業務量が大幅に増える恐れがあります。
また、採用業務に不慣れな従業員にとっては、候補者との面接やコミュニケーションに苦手意識を持つ場合もあります。採用スキルの習得に時間がかかることで、業務効率が低下するリスクもあります。
従業員の負担増加は、モチベーションの低下や業務品質の低下につながりかねません。スクラム採用を導入する際は、従業員の業務量やスキルを考慮し、適切なサポート体制を整える必要があるでしょう。
採用に対する意識の統一が難しい
スクラム採用では、現場の従業員が採用プロセスに関与することで、組織全体で採用に対する意識を共有することが重要になります。しかし、その意識の統一は容易ではありません。
従業員一人ひとりが採用に対する理解度や関心度合いは異なります。採用の重要性を十分に認識していない従業員や、自身の業務との関連性を感じていない従業員もいるでしょう。
また、部署や職種によって求める人材像が異なる場合、採用基準の統一が難しくなることもあります。評価の視点がバラバラだと、候補者に一貫したメッセージを伝えられなくなるリスクがあります。
採用に対する意識のズレは、採用プロセスの混乱や、候補者との信頼関係の構築に悪影響を及ぼす可能性があります。スクラム採用を成功させるには、全社的な教育や啓発活動を通じて、採用に対する意識の統一を図ることが不可欠です。
個人情報管理コストの上昇
スクラム採用では、現場の従業員が候補者の個人情報に触れる機会が増えます。そのことは、個人情報管理コストの上昇につながる恐れがあります。
候補者の履歴書や職務経歴書には、氏名や連絡先、学歴、職歴など、機密性の高い個人情報が含まれています。これらの情報を適切に管理するためには、セキュリティ対策や従業員教育などの対策が必要になります。
また、採用プロセスが進むにつれて、面接記録や評価データなど、候補者に関する情報量は増大します。これらの情報を一元的に管理し、適切にアクセス制御する仕組みづくりにはコストがかかります。
個人情報の漏洩は、企業の信用失墜につながる重大なリスクです。スクラム採用を導入する際は、個人情報保護の重要性を全従業員に徹底し、適切な管理体制を整備する必要があります。
スクラム採用を成功に導くポイント
スクラム採用を導入し、その効果を最大限に引き出すためには、いくつかの重要なポイントがあります。ここでは、スクラム採用を成功に導く4つのポイントを紹介します。
従業員の積極的な参加を促す環境整備
スクラム採用の成否は、現場の従業員の積極的な参加にかかっています。従業員が主体的に採用プロセスに関与できる環境を整備することが重要です。
そのためには、まず経営層がスクラム採用の意義を明確に示し、全社的な取り組みとして位置づける必要があります。採用が組織の成長に直結する重要な活動であることを、全従業員に浸透させることが求められます。
また、従業員が採用業務に専念できる時間を確保することも大切です。本来の業務とのバランスを考慮し、柔軟な勤務体系を整えることが有効でしょう。
加えて、採用スキルの習得を支援する研修制度の導入も効果的です。面接技法やコミュニケーションスキルなどを身につけることで、従業員は自信を持って候補者と向き合えるようになります。
面接のトレーニングに関してはこちらの記事で詳しく解説しています。

このように、従業員が積極的に採用に参画できる土壌を醸成することが、スクラム採用の第一歩となります。
採用関連情報の一元管理と共有
スクラム採用では、現場の従業員が扱う採用関連情報が増大します。それらの情報を一元管理し、適切に共有することが重要なポイントの1つです。
候補者の履歴書や職務経歴書、面接記録、評価データなどの情報を、誰もがアクセスしやすい状態で管理する必要があります。そのためには、採用管理システムの導入が有効です。
さらに、採用プロセスの進捗状況や課題を、関係者間で共有することも大切です。定期的に会議を開催し、情報交換を行うことで、採用活動の継続的な改善につなげられます。
採用担当者から現場への権限移譲
スクラム採用では、採用担当者から現場の従業員へ、採用に関する権限を適切に移譲することが重要なポイントです。
従来の採用手法では、採用のほとんどの局面で採用担当者が意思決定を行ってきました。しかし、スクラム採用では、現場の従業員が主体的に採用プロセスを進めていくことが求められます。
そのためには、採用担当者が持つ権限の一部を、現場の従業員に委譲する必要があります。例えば、求人票の作成や面接の実施、候補者の評価などについて、現場の判断を尊重することが大切です。
ただし、権限の移譲は段階的に行うことが賢明です。一度に全ての権限を委ねるのではなく、徐々に範囲を広げていくことで、現場の習熟度に合わせた移行が可能になります。
また、権限の移譲と同時に、現場の採用活動を支援する体制の構築も欠かせません。採用担当者は、現場の従業員に対して、適切なアドバイスやフィードバックを行う役割を担います。
経営陣の理解と協力の重要性
スクラム採用を組織に定着させ、継続的な成果を上げるためには、経営陣の理解と協力が不可欠です。
経営陣がスクラム採用の意義を理解し、全社的な取り組みとして位置づけることで、従業員の意識が高まります。また、スクラム採用の導入には、採用管理システムの導入や従業員教育など、一定のコストがかかります。これらの投資を行うには、経営陣の判断が必要になります。
加えて、スクラム採用では、採用活動に多くの時間を割く必要があります。経営陣が採用の重要性を認識し、従業員が採用業務に専念できる環境を整備することが求められます。
さらに、経営陣自身が採用活動に関与することで、従業員の意欲を高める効果も期待できます。経営陣が候補者との面談に同席したり、採用イベントに参加したりすることで、採用の重要性が全社的に浸透していきます。
まとめ
スクラム採用は、採用活動に現場の従業員を巻き込むことで、組織の採用力を高める手法です。
ミスマッチの防止、従業員エンゲージメントの向上、優秀な人材の獲得など、多くのメリットが期待できます。一方で、従業員の負担増加や個人情報管理コストの上昇など、デメリットにも留意が必要です。
スクラム採用を成功させるには、従業員の参加を促す環境整備、採用情報の一元管理、権限移譲、経営陣の理解と協力が重要なポイントとなります。これらを押さえることで、スクラム採用の効果を最大限に引き出せるでしょう。