人材不足が叫ばれる昨今、縁故採用が再び注目されています。
縁故採用は、一般の求人募集とは異なる採用経路であり、コネクションを活かした人材確保の方法として知られています。企業にとっては採用コストを抑えつつ、信頼できる人材を獲得できるメリットがある一方、公平性に欠けるなどのデメリットもあります。
本記事では、縁故採用の基本的な知識から、そのメリットとデメリット、リファラル採用との違い、成功させるためのポイントまで、詳しく解説していきます。
縁故採用とは?
縁故採用とは、企業が社員の親族や友人、知人を採用する手法です。血縁関係や個人的なつながりを通じて、信頼できる人材を確保することが目的です。一般的な求人募集では得られない情報を基に、候補者の人物像や適性を判断できるのが特徴です。
縁故採用は、企業規模が小さく、人材採用に苦戦している会社にとって、有効な採用手段の一つとされています。しかし、既にその企業で働いている人からすると、実力ではなくコネで入社したように写ってしまい、「コネ採用」としてよくないイメージがついていることも事実です。
また、採用方法に関しては一切行わない場合もあれば、しっかりと面接など採用フローを行うものもあり、縁故採用といっても形式は幅広く存在しています。
縁故採用の歴史
縁故採用は古くから存在する採用手法で、特に家族経営の企業や小規模な事業所で一般的でした。事業主が信頼できる身内や知人に白羽の矢を立て、雇用するケースが多くありました。
産業革命以降、企業規模の拡大に伴い、大量の労働力を必要とするようになると、縁故採用はさらに広がりを見せました。役員や社員の繋がりで人材を確保することが、組織の連携と効率アップにつながったのです。
しかし20世紀後半に差し掛かると、公正な採用の必要性が叫ばれるようになり、縁故採用は次第に批判の的となっていきました。多くの企業で、能力を重視した採用方針へと移行が進んだのです。現在でも縁故採用を禁止する企業は少なくありません。
とはいえ、中小企業を中心に、今なお縁故採用は活用されています。重要なのは、そのメリットを生かしつつ、デメリットを最小限に抑える運用ルールの策定だといえるでしょう。
縁故採用の法的に問題がある?
縁故採用は、法律で禁止されているわけではありません。しかし、公平性や透明性の観点から、注意すべき点がいくつかあります。
まず、公務員の採用においては、国家公務員法や地方公務員法により、厳格に縁故採用が禁止されています。公務員試験の合格者以外からの採用は認められていないのです。
一方、民間企業においては、男女雇用機会均等法など、採用差別を禁じる法律に抵触しない限り、縁故採用を実施できます。ただし、社員の公平感を損ねたり、組織の士気を下げたりするようなケースには注意が必要です。
縁故採用のメリット
縁故採用には、一般的な求人募集にはないメリットがいくつかあります。

企業にとっての縁故採用のメリット
企業にとっての縁故採用の最大のメリットは、採用コストの削減です。求人広告や人材紹介会社への依頼は不要で、社員のネットワークを活用するだけで済みます。また、書類選考や面接の手間も省けるため、採用工数を大幅に減らすことができるのです。
さらに、社員の紹介である分、候補者の人物像や適性を把握しやすいというメリットもあります。入社前から企業理解が進んでいるため、入社後の早期離職リスクも低減できます。加えて、社員との信頼関係が、組織へのエンゲージメント向上や、定着率アップにもつながるでしょう。
求職者にとっての縁故採用のメリット
求職者にとっても、縁故採用にはメリットがあります。何よりも、入社前に社員から、企業の実情を聞くことができるのは大きな利点です。企業理解を深められるだけでなく、自身の適性を見極める助けにもなるでしょう。
また、採用に直結するルートであるため、一般の求人応募よりも採用される可能性が高いのも見逃せません。選考プロセスの一部が省略されることで、入社までのハードルは下がります。
入社後は、社員との個人的な関係が、職場での頼れる存在となるのも心強いポイントです。仕事上の悩みを相談したり、キャリア形成の助言を得たりしやすい環境だと言えます。
縁故採用のデメリット
縁故採用には、一定のメリットがある反面、いくつかのデメリットもあります。企業と求職者、双方の視点から見ていきましょう。

企業にとっての縁故採用のデメリット
縁故採用の最大のデメリットは、公平性の欠如です。役員や社員との繋がりを重視するあまり、能力本位の採用から逸脱する恐れがあります。そうなれば、組織の士気低下や、モチベーションダウンを招きかねません。
また、同質的な人材ばかりが集まることで、多様性が失われるリスクもあります。多彩な視点や発想が組織の活力を生むことを考えれば、縁故採用の偏りは注意が必要だと言えます。
加えて、社員の人間関係に配慮するあまり、厳しい指導が難しくなるというケースもあるでしょう。縁故入社者の教育やマネジメントには、細心の注意と工夫が求められます。
求職者にとっての縁故採用のデメリット
求職者にとって、縁故採用のデメリットとなり得るのは、周囲の目です。実力が伴っていれば問題ありませんが、能力以上の評価を受けていると捉えられた場合、反感を買う恐れがあります。社内の人間関係が悪化すれば、居心地の悪さにつながりかねません。
また、特別な配慮を受けることへのプレッシャーも無視できません。期待に応えようと背伸びをし過ぎたり、周りへの遠慮から自己主張を控えたりと、ストレスを感じるケースは少なくないでしょう。
さらに、紹介してくれた社員の立場を考えて、容易に転職できない状況も考えられます。キャリアの選択肢が制限されるリスクは、見落とせません。
縁故採用とリファラル採用の違い
縁故採用と混同されがちなものに、リファラル採用があります。しかし、この2つは性質の異なる採用手法であり、その違いを理解することが重要です。
リファラル採用とは?
リファラル採用とは、企業が社員に人材を紹介してもらう制度のことを指します。社員の知人・友人を採用候補者として募り、採用に至った場合は社員に報奨金を支払うのが一般的です。つまり、社員を通して優秀な人材を獲得する手法だと言えます。
この方式の目的は、費用対効果の高い採用と、定着率の向上です。社員のネットワークを活用することで、採用コストを抑えつつ、企業の求める人物像に合う人材を見つけやすくなります。また、入社前から社員との接点があることで、組織への適応もスムーズだと期待できます。
リファラル採用に関してはこちらの記事で詳しく解説しています。

縁故採用とリファラル採用の主な相違点
縁故採用とリファラル採用の決定的な違いは、その目的にあります。縁故採用が社員の親族縁者の就職先確保を主眼とするのに対し、リファラル採用はあくまで企業の人材獲得を目的としています。
また、採用プロセスにも違いがあります。縁故採用では、社員との関係性を重視するあまり、選考基準があいまいになりがちです。一方、リファラル採用では、通常の採用と同様の選考を実施するのが一般的で、候補者の能力を公平に評価することが重視されます。
さらに、採否の決定権についても違いがあると言えるでしょう。縁故採用の場合、社員の意向が大きく影響することがありますが、リファラル採用では、あくまで人事部門が候補者の適性を見極め、採用可否を判断します。
まとめると、下記の表のように縁故採用とリファラル採用は、表面的な類似性はあるものの、本質的には異なる採用手法だということがわかります。各企業の採用目的に合わせて、適切な手法を選択することが肝要だと言えるでしょう。
縁故採用 | リファラル採用 | |
---|---|---|
目的 | 社員縁者の就職先確保 | 企業の人材獲得 |
選考基準 | 社員との関係性重視 | 候補者の能力重視 |
採否決定権 | 社員の意向が影響 | 基本的に人事部門が判断 |
縁故採用を成功させるためのポイント
前述の通り、縁故採用にはメリットもデメリットもあります。そのデメリットを最小限に抑え、採用手法として有効に機能させるには、いくつかのポイントを押さえる必要があります。
社内ルールの整備と周知の徹底
何よりも重要なのは、明確な社内ルールの整備と、その周知の徹底です。縁故採用の目的や、実施方法を定めた規定を設けることで、公平性や透明性を担保することができます。
例えば、以下のような項目を盛り込むとよいでしょう。
- 社員の親族や、社員自身が役員を務める会社の関係者は、原則として縁故採用の対象外とする
- 選考基準は、通常の採用と同様とし、人事部門が候補者の能力を公平に評価する
- 採用可否は人事部門が決定し、社員の意向は参考程度にとどめる
- 縁故入社者には特別な処遇は行わず、他の社員と同等の教育・キャリア機会を提供する
こうしたルールを社内規定として明文化し、全社員に周知することが大切です。縁故採用に対する社員の理解と協力を得るためにも、丁寧な説明を心がけましょう。
適切な採用プロセスの設計
縁故採用を成功させるには、適切な採用プロセスの設計も欠かせません。一般的な採用と同様に、書類選考や面接などの選考ステップを設け、候補者の能力を多角的に評価することが重要です。
特に面接においては、社員との関係性だけでなく、仕事への意欲や適性を重点的に見極めるようにしましょう。また、入社後の活躍をイメージできるよう、具体的な質問を心がけることも大切です。
加えて、内々定後のフォローも重要です。内定辞退を防ぐため、入社までの期間、定期的にコミュニケーションを取るなどの工夫が求められます。
縁故採用者の育成とマネジメント
縁故採用者を戦力化するには、入社後の育成とマネジメントが鍵を握ります。他の社員と同等の教育機会を提供し、スキルアップを支援することが大切です。
また、上司や先輩社員との良好な関係構築を促すことも重要でしょう。特別扱いをするのではなく、一社員として接することで、周囲の不公平感を払拭することができます。
加えて、定期的な面談などを通じて、縁故採用者の悩みや不安を汲み取る努力も必要です。早期離職を防ぎ、長期的な活躍を引き出すためにも、きめ細やかなフォローが欠かせません。
定期的な効果測定と改善
縁故採用の効果を定期的に測定し、運用方法の改善を図ることも重要です。採用者数や定着率、パフォーマンスなどの数値を追跡し、目標達成度を評価しましょう。
また、社員アンケートなどを通じて、制度に対する社内の反応を把握することも有効です。課題があれば、速やかに改善策を講じることが求められます。
こうしたPDCAサイクルを回すことで、縁故採用の適切な運用と、その効果の最大化を目指すことができるでしょう。
縁故採用が向いている企業の特徴
ここまで見てきたように、縁故採用にはメリットとデメリットがあり、その効果的な活用には一定の工夫が必要です。特に、以下のような特徴を持つ企業において、縁故採用が有効に機能する可能性が高いと言えます。
深刻な人材不足に直面している企業

深刻な人材不足に悩む企業にとって、縁故採用は有力な打開策となり得ます。求人広告や人材紹介に頼るだけでは、必要な人材を確保できないケースも少なくありません。
そんな時、社員のネットワークを活用できる縁故採用は、心強い味方となるでしょう。通常の採用ルートでは見つからない優秀な人材に出会えるチャンスが広がります。
人材不足が業績に直結するような企業においては、縁故採用の導入を真剣に検討する価値があると言えます。
従業員の長期定着を重視する企業
従業員の定着率向上を重視する企業にとっても、縁故採用は有効な手法だと考えられます。社員の紹介である以上、企業文化への理解や適応力が高い人材を獲得できる可能性が高まります。
加えて、社員との信頼関係が、仕事へのモチベーション向上にもつながるでしょう。馴染みの環境で、やりがいを感じながら働ける土壌が整うのです。
長期的な人材育成を志向する企業であれば、縁故採用の活用は検討に値すると言えます。もちろん、公平性の担保と、適切な運用ルールの整備が大前提ではありますが。
まとめ
以上、縁故採用について、その基本知識からメリット・デメリット、リファラル採用との違い、成功のポイントまで、詳しく解説してきました。
縁故採用は、信頼できる人材の獲得や、採用コストの削減などのメリットがある一方で、公平性の欠如や、多様性の喪失などのデメリットも孕んでいます。특に、社内の不公平感を招かないよう、明確な運用ルールの整備と、周知の徹底が欠かせません。
拙速な導入は禁物ですが、自社の課題や目的を見据えつつ、縁故採用の可能性を探ってみてはいかがでしょうか。人材確保の有力な選択肢の一つとなるかもしれません。