SNSの普及に伴い、企業の採用活動にもソーシャルメディアの活用が欠かせなくなっています。
SNS採用(ソーシャルリクルーティング)は、企業と求職者をダイレクトにつなぐ新たな採用手法として注目を集めています。しかし、その一方で、効果的な運用には課題も多いのが実情です。
この記事では、SNS採用の定義や目的、メリットとデメリット、成功のポイントなどを詳しく解説します。SNS採用の基礎知識から、運用のコツまで、実践的な情報をお届けします。
SNS採用(ソーシャルリクルーティング)とは?
ここでは、SNS採用の基本から普及した背景、SNS採用に適した主要なSNSの種類を紹介します。
SNS採用(ソーシャルリクルーティング)の定義と目的
SNS採用とは、企業がソーシャルメディアを活用して行う採用活動のことを指します。その目的は、優秀な人材の獲得、企業ブランドの向上、採用コストの削減などが挙げられます。SNSを通じて、企業は求職者により直接的にアプローチすることができ、求職者も企業の情報をリアルタイムで簡単に入手できるようになります。
また、SNS採用では、採用企業と求職者との双方向でのコミュニケーションが可能であり、企業文化や社風を伝えることができるのも大きな特徴です。単なる求人情報の発信だけでなく、社員の声を届けたり、職場の雰囲気を動画で伝えたりすることで、求職者に企業の魅力を効果的に伝えることができます。
SNS採用が普及した背景
SNS採用が普及した背景には、スマートフォンの普及とSNSの利用者増加が大きく関係しています。
特にZ世代と呼ばれる若年層は、SNSを日常的に利用しており、企業情報の収集にもSNSを活用する傾向が強いです。こうした状況を受け、企業側もSNSを採用活動に取り入れるようになりました。

実際に、モバイル社会研究所「2024年一般向けモバイル動向調査」によると20代の情報収集先メディア比率はソーシャルメディアが群を抜いて比率が高いことがわかります。
SNS採用の現状と今後の動向
現在、多くの企業がSNS採用に力を入れており、特に大手企業を中心に積極的な取り組みが行われています。
ビジネスに特化しているLinkedInやFacebookをはじめ、普段から使用することの多いTwitterなどの主要なSNSに加え、最近ではInstagramやTikTokなど、若年層に人気のSNSも採用活動に活用されるようになりました。
今後もSNS採用の重要性は高まり続けると予想され、企業の採用戦略において欠かせない存在になっていくでしょう。
SNS採用に適した主要SNSの種類と特徴
ここでは、SNS採用に適したSNSの中でも特に主要なものの種類と特徴を解説します。
LinkedIn:ビジネス特化型SNSでスキルを持つ人材と出会える
LinkedInは、ビジネス特化型のSNSであり、専門性の高い人材との接点を持つのに適しています。
ユーザーの多くがビジネスパーソンであり、自身のスキルや経験、学歴などを詳細に記載しているため、求める人材を見つけやすいのが特徴です。また、業界や職種ごとのコミュニティが充実しており、ターゲットを絞った情報発信が可能です。
Facebook:幅広い年齢層に利用される大手SNS
Facebookは、世界最大のユーザー数を誇るSNSであり、幅広い年齢層に利用されています。
企業ページを通じて、会社情報や採用情報を発信できるほか、社員の声を伝えるのにも効果的です。また、Facebookのターゲティング広告を活用することで、より精度の高い採用活動が可能になります。
Twitter:リアルタイム性の高い情報発信に適したSNS
Twitterは、リアルタイム性が高く、即時性のある情報発信に適しているSNSです。
企業アカウントを通じて、採用情報や会社の話題を発信することで、フォロワーとのエンゲージメントを高めることができます。また、ハッシュタグを活用することで、特定の話題に関心のあるユーザーにリーチしやすくなります。
Instagram:若年層に人気の画像・動画共有SNS
Instagramは、若年層を中心に人気の高い画像・動画共有SNSです。
ビジュアルでインパクトのあるコンテンツが好まれる傾向にあり、企業の雰囲気や社風を伝えるのに効果的です。社員の日常やオフィスの様子を投稿することで、求職者に企業の魅力を伝えることができます。
YouTube:動画コンテンツで企業の魅力を深く伝えられる
YouTubeは、動画共有プラットフォームの代表格です。長尺の動画コンテンツを通じて、企業の魅力を深く伝えることができます。
会社説明会の様子や社員インタビューなどを動画で配信することで、求職者に臨場感のある情報を提供できます。また、動画広告を活用することで、ターゲットに合わせた採用アプローチも可能です。
SNS採用のメリットと効果
それでは、徐々に盛んになってきているSNS採用にはどんなメリットがあるのでしょうか。
情報拡散力の高さと認知度向上
SNS採用の大きなメリットの一つは、情報拡散力の高さです。SNSでは、ユーザーがシェアやリツイートをすることで、企業の情報が瞬時に広がっていきます。この拡散力は、従来の求人広告では実現が難しいものです。SNSを通じて企業の情報が広く拡散されることで、企業の認知度向上につながります。
また、SNSでは、ハッシュタグを活用することで、特定のテーマや業界に関心のある人々に情報を届けることができます。例えば、#エンジニア採用や#営業職募集 などのハッシュタグを付けることで、それらの職種に興味がある人々に効果的にアプローチできます。こうしたターゲットを絞った情報発信は、SNS採用ならではの強みと言えるでしょう。
潜在層へのアプローチと人材プールの形成
SNS採用のもう一つの大きなメリットは、潜在層へのアプローチが可能なことです。潜在層とは、今すぐに就職に応募することや転職を考えているわけではないものの、将来的に就職の可能性がある人材のことを指します。SNSを通じて継続的に企業の情報を発信することで、こうした潜在層にもアプローチすることができます。
特に、自社の製品やサービス、企業文化に関心を持ってもらうことで、将来の採用に繋がる可能性があります。また、SNSでのコミュニケーションを通じて、企業と潜在層との接点を増やすことで、長期的な人材プールの形成にもつながります。こうした取り組みは、単発的な求人広告では実現が難しく、SNS採用ならではのメリットと言えます。
企業の魅力や社風の効果的な発信
SNS採用では、企業の魅力や社風を効果的に発信できることも大きなメリットです。求職者は、給与や福利厚生だけでなく、企業の雰囲気や社員の声にも関心を持っています。SNSを活用することで、こうした情報を求職者に直接的に届けることができます。
例えば、社員のインタビュー動画を公開したり、職場の雰囲気が伝わる写真を投稿したりすることで、求職者に企業の魅力をリアルに伝えることができます。また、社員による自主的な情報発信を促すことで、企業の人となりを伝えることもできるでしょう。こうした取り組みにより、求職者と企業のミスマッチを防ぎ、優秀な人材の獲得につなげることができます。
コスト面でのメリットと投稿の簡便性
SNS採用は、コスト面でのメリットも大きいです。多くのSNSは無料で利用できるため、求人広告などと比べて費用を抑えることができます。また、SNS広告を活用する場合でも、従来の広告手法と比べて費用対効果が高いことが多いです。
加えて、SNSへの投稿は比較的簡単におこなえるため、採用担当者の負担を軽減できます。特に、写真や動画の投稿は手軽におこなえるため、日常的な情報発信に適しています。ただし、投稿内容の質を維持するためには、一定の工夫と努力が必要になります。
以上のように、SNS採用にはさまざまなメリットがあります。企業の採用戦略において、SNSの活用は欠かせない存在になりつつあります。一方で、後述するようなデメリットや課題もあるため、それらを理解した上で、効果的なSNS採用を進めていくことが重要です。
SNS採用の課題とデメリット
それでは、SNS採用にはどんなデメリットがあるのか解説していきます。
採用効果の測定が難しい
SNS採用の大きな課題の一つは、採用効果の測定が難しいことです。SNSでの情報発信が、実際の応募や採用にどの程度結びついたのかを正確に把握することは容易ではありません。特に、SNSからの流入が直接的な応募に繋がらない場合も多く、その効果を定量的に評価することが難しいのです。
この課題に対応するためには、適切なKPI(重要業績評価指標)を設定し、定期的に評価することが重要です。例えば、SNSでの企業情報の閲覧数や、SNSからの採用サイトへの流入数などを指標として設定し、継続的に測定することで、一定の効果測定が可能になります。また、SNSでの施策と採用結果の相関関係を分析することで、より効果的な施策立案に繋げることができるでしょう。
炎上リスクと企業イメージへの影響
SNS採用のもう一つの大きな課題は、炎上リスクと企業イメージへの影響です。SNSでは、ユーザーからの反応がダイレクトに届くため、ネガティブな反応への対応を誤ると、炎上に発展する可能性があります。また、不適切な投稿や炎上は、企業イメージを大きく損なう恐れがあります。
こうしたリスクに対応するためには、SNS運用における適切なガイドラインの策定と、社員教育が不可欠です。投稿内容のチェック体制を整備し、問題のある投稿を未然に防ぐ取り組みが求められます。また、炎上が発生した場合の対応マニュアルを用意し、速やかに適切な対応を取ることも重要です。
継続的な運用に必要な人的リソースと工数
SNS採用を効果的に進めるためには、継続的な運用が欠かせません。しかし、その運用には一定のマンパワーと工数が必要になります。特に、SNSでは新鮮な情報が求められるため、定期的な情報発信が必要不可欠です。
この課題に対応するためには、社内の協力体制を整備することが重要です。採用担当者だけでなく、社員全体でSNS採用の重要性を理解し、情報発信に協力する体制を作ることが求められます。また、外部リソースの活用も検討すべきでしょう。
SNS運用を専門とするエージェントなどに委託することで、運用の効率化と高度化を図ることができます。
運用ノウハウの蓄積と改善の必要性
SNS採用を始めたばかりの企業では、運用ノウハウの蓄積が大きな課題となります。どのようなコンテンツが求職者の興味を引くのか、どのSNSが自社に適しているのかなど、試行錯誤が必要になります。
この課題に対応するためには、PDCAサイクルを回し、継続的に改善を図ることが重要です。SNSでの施策の効果を定期的に評価し、改善点を洗い出すことが求められます。また、他社の事例を参考にしたり、専門家のアドバイスを求めたりすることで、効果的な運用ノウハウを蓄積することができるでしょう。
SNS採用の成功事例と戦略
ここでは、SNS採用を活用して採用をうまく行なっている企業の例を見ていきましょう。
三菱商事株式会社
商社業界最大手である三菱商事株式会社では、主にInstagramで自社の採用について発信しています。フォロワー数はなんと1万人越えとただでさえ人気な企業ですが、SNSでも人気を博しています。
投稿内容は求職者からよく寄せられる質問へ、社内のメンバーが回答しているものやセミナーなどのイベント情報が中心となっています。また、会社のことだけでなく日常の生活についての投稿などもあり、オンオフがしっかりしている企業という印象を受けます。
株式会社サイバー・バズ
大手インターネット広告代理店である株式会社サイバーエージェントから独立した株式会社サイバー・バズ社ではInstagramやTikTokを活用することで採用を効率的に行なっています。
Instagramでは、フォロワーが1,000人近くと多くのフォロワーを集めることに成功しています。また、投稿は各社員に焦点を当てたものから、自社の採用フローにもあるグループディスカッションの対策方法など、求職者によって非常に参考になる幅広い投稿を行なっています。
株式会社マイナビ
人材系の最大手企業である株式会社マイナビでは新卒学生の採用活動において積極的にSNSを活用しています。
Instagramではフォロワー数は4,000人以上と非常に多くにフォロワーを集めています。また、投稿内容は優秀な内定者への趣味や学生生活頑張ったことなどのインタビューを大学生のサークルアカウントのような形で紹介することで、親しみを感じる投稿となっています。
SNS採用を成功させるためのポイント
SNSはうまく活用することで非常に効果的に採用を進めることができますが、ポイントを押さえていく必要があります。ここでは、SNS採用を成功させるためのポイントを解説します。
ペルソナ設計と企業の魅力の明確化
SNS採用を成功させるためには、まず自社の採用ターゲットとなるペルソナを明確にすることが重要です。ペルソナとは、採用したい人材の具体的なイメージのことを指します。年齢や性別、職種、興味関心などを詳細に設定することで、より効果的なアプローチが可能になります。
また、自社の魅力を明確にすることも重要なポイントです。自社の強みや独自性、社風など、求職者に訴求するポイントを整理し、SNSでの情報発信に活かすことが求められます。その際、ペルソナの興味関心に合致するような情報を発信することが効果的です。
以下のような観点で、自社の魅力を整理してみましょう。
- 自社の製品やサービスの強み
- 社員の働きがいや成長機会
- 独自の社風や価値観
- 福利厚生や職場環境の充実度
こうした魅力を、SNSでわかりやすく発信することで、求職者の興味を引き付けることができるはずです。
全社的な協力体制の構築と情報共有
SNS採用を成功させるためには、全社的な協力体制の構築が欠かせません。SNS採用は、採用担当者だけでなく、社員全体で取り組むことが求められる施策だからです。
そのためには、まずSNS採用の重要性を社内で共有し、理解を得ることが重要です。経営層を巻き込み、SNS採用への投資や人的リソースの配分を働きかけることも必要でしょう。また、SNS採用の目的や方針を明確にし、社員全体で共有することも大切です。
加えて、SNS採用に関する情報共有の仕組みを整備することも重要なポイントです。SNSでの発信内容や反響、施策の効果などを定期的に共有し、社員全体で情報を共有することが求められます。こうした取り組みを通じて、SNS採用への理解と協力を得ることが可能になるはずです。
柔軟な発想と複数SNSの活用
SNS採用では、柔軟な発想と複数SNSの活用が成功のカギを握ります。画一的な情報発信では、求職者の興味を引き付けることは難しいでしょう。求職者の目に留まる、独自性のあるコンテンツを企画・制作することが重要です。
例えば、以下のような施策が考えられます。
- 社員によるリレー形式のブログ
- 職場の雰囲気が伝わるオフィス紹介動画
- 仕事の魅力を伝えるインタビュー記事
- イベントや研修の様子をレポートする写真集
また、自社に適した複数のSNSを活用することも重要です。LinkedInは専門性の高い人材、Instagramは若年層、Twitterは幅広い層にアプローチできる、といった具合に、SNSの特性を理解した上で、効果的な組み合わせを選択しましょう。
データ分析に基づく運用改善とPDCAサイクル
SNS採用の効果を最大化するためには、データ分析に基づく運用改善とPDCAサイクルが欠かせません。SNSでの施策の効果を定量的に把握し、改善につなげる取り組みが求められます。
そのためには、まずKPIを設定することが重要です。例えば、SNSでの投稿への反応数(いいね、コメント、シェアなど)や、SNSからの採用サイトへの流入数、応募数などを指標として設定しましょう。これらの指標を定期的に測定・分析することで、施策の効果を把握することができます。
また、分析結果を基に、PDCAサイクルを回すことが重要です。施策の効果が低い場合は、原因を分析し、改善策を立案・実行することが求められます。一方、効果が高い施策は、さらに強化することで、より大きな成果につなげることができるでしょう。
SNS採用は、トライアンドエラーを繰り返しながら、最適な運用方法を見出していくことが重要です。データ分析とPDCAサイクルを活用しながら、継続的に改善を図ることが成功への近道と言えるでしょう。
まとめ
以上のポイントを押さえることで、SNS採用の効果を最大限に引き出すことができるはずです。自社の採用戦略に合わせて、SNS採用の在り方を検討し、積極的に推進していくことが求められます。
SNS採用は、今や企業の採用活動において欠かせない存在となっています。その重要性を理解し、適切に活用することで、優秀な人材の獲得につなげることができるでしょう。
一方で、運用における課題やリスクも存在します。これらを適切にマネジメントしながら、効果的なSNS採用を推進していくことが求められます。
SNS採用のポイントを押さえ、全社一丸となって取り組むことで、採用活動の成功を目指しましょう。SNSの可能性を最大限に引き出し、自社の採用力強化につなげていくことが、これからの時代を勝ち抜くカギとなるはずです。