近年、多くの企業が採用活動に苦戦する中で注目されているのがリファラル採用です。従業員の知人や友人を紹介してもらい、採用につなげるこの手法は、従来の採用方法とは一線を画します。
リファラル採用は特徴やメリットを理解し、適切に導入することで、採用コストや採用工数を削減しながらも採用の質と効率を高められる可能性があります。
そこで本記事では、リファラル採用の概要から導入のポイントまで、詳しく解説していきます。
リファラル採用とは?
リファラルは、一般的に「紹介・推薦」を意味する言葉です。ビジネスの文脈では、既存顧客から新規顧客を紹介してもらうことを指すことが一般的です。
リファラル採用では、その意味の通り、従業員が自身の知人や友人を企業に推薦し、採用につなげることを意味します。
リファラル採用が注目される背景
近年、日本でもリファラル採用が注目を集めるようになった背景には、採用活動の難化があります。少子高齢化による労働力人口の減少や、転職市場の活性化により、優秀な人材の確保が難しくなっています。

加えて、求人広告の費用増加や応募者の質的な課題など、従来の採用手法の限界も指摘されています。こうした中で、社員の紹介を通じて効率的かつ的確に人材を獲得できるリファラル採用に、多くの企業が活路を見出そうとしているのです。
リファラル採用と縁故採用の違い
リファラル採用と混同されがちなのが、縁故採用です。確かに両者は社員の紹介を通じて人材を獲得する点で共通していますが、重要な違いがあります。
縁故採用が社員の親族や友人を特別枠で採用することを指すのに対し、リファラル採用はあくまで通常の選考プロセスを経て採用を決定します。また、縁故採用には情実人事のイメージがつきまとう一方、リファラル採用は推薦者と被推薦者の間に一定の距離を保ち、より客観的な評価を重視します。
つまり、単なる「コネ」ではなく、その人物の能力や適性を見極めたうえでの紹介を促すところに、リファラル採用の特徴がだといえます。
リファラル採用における報酬の適法性と留意点
リファラル採用における報酬制度の導入は、適切な運用がなされれば違法にはなりませんが、法的な観点からの確認は必須です。知らずに違反してしまっては、トラブルやリスクにつながる恐れがあるためです。
そこで、ここでは職業安定法と労働基準法の観点から、リファラル採用の報酬の適法性と留意点を解説します。
職業安定法の観点からの適法性と留意点
職業安定法では、職業紹介や労働者募集などのあらゆるルールが定められています。
その中でも特にリファラル採用においては、第30条と40条が争点となるためしっかり理解をしておきましょう。
有料職業紹介事業との関係(第30条)
職業安定法第30条では、以下のように言及されています。
有料の職業紹介事業を行おうとする者は、厚生労働大臣の許可を受けなければならない。
厚生労働省 職業安定法
上記の通り、職業安定法第30条では、有料の職業紹介事業を行うには厚生労働大臣の許可が必要とされています。
リファラル採用では、報酬が、人材紹介の対価として支払われる場合、有料職業紹介に該当する可能性があります。ただし、実務上リファラル採用のためだけに従業員が許可を取得するのは現実的ではありません。
しかし、多くの企業ではリファラル採用が行われています。それは、職業安定法第40条を見ることでわかります。
報酬を賃金・給料として支払う場合の取り扱い(第40条)
職業安定法第40条は以下の通りです。
労働者の募集を行う者は、その被用者で当該労働者の募集に従事するもの又は募集受託者に対し、賃金、給料その他これらに準ずるものを支払う場合又は第三十六条第二項の認可に係る報酬を与える場合を除き、報酬を与えてはならない。
厚生労働省 職業安定法
これを見てみると、職業安定法第30条とは異なり、職業安定法第40条では、賃金・給料として報酬を支払うことは禁止されていません。つまり、リファラル採用の報酬を賃金・給料として位置づければ、職業安定法に抵触しないと解釈できます。
ただし、報酬があまりに高額な場合は、適切でないと判断され、違法とみなされるリスクがあるため注意が必要です。
労働基準法の観点からの適法性と留意点
次に、労働における条件を定めた法律である労働基準法の観点から、注意事項を解説します。
特にリファラル採用においては、第11条と第15条をしっかりと理解しておくことが重要です。
賃金の定義(第11条)
労働基準法の第11条には以下のように賃金について定められています。
この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。
e-gov 法令検索 労働基準法
上記のように、労働基準法第11条では、賃金を「労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのもの」と定義しています。つまり、職業安定法からわかるように、リファラル採用の報酬が賃金であれば問題ないため、リファラル採用の報酬が、労働の対償として支払われるのであれば、法に抵触しません。
労働条件の明示義務(第15条)
職業安定法や労働基準法の第11条から、賃金としてリファラル採用の報酬を支払えば違法ではないことがわかりました。しかし、それだけでは不十分です。
労働基準法の第15条には、以下のように記されています。
使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
e-gov 法令検索 労働基準法
つまり、リファラル採用の報酬を賃金として支払う場合、その旨を就業規則に明記し、労働者に明示する必要があります。就業規則にリファラル採用を業務の一部と位置づけることで、報酬が労働の対償であることを証明できます。逆に、就業規則に定めていない場合は、違法となるリスクがあります。
以上のように、リファラル採用の報酬は、職業安定法や労働基準法のに気をつければ適法に運用することが可能です。ポイントは、報酬を賃金・給料として適切に位置づけ、就業規則に明記して労働者に明示することです。また、報酬の金額設定にも留意が必要です。リファラル採用の適法性を担保し、トラブルを防ぐためにも、これらの点をしっかりと押さえておきましょう。
リファラル採用のメリット
リファラル採用には、通常の採用手法にはない様々なメリットがあります。ここでは、リファラル採用のメリットを4つのポイントに絞って解説します。
採用のミスマッチ防止と定着率の改善
リファラル採用の大きなメリットの1つが、採用のミスマッチ防止です。社員からの紹介であれば、その人物の能力や人柄、さらには自社の文化への適合性などを事前に確認できます。一般の応募者と比べて情報量が格段に多いため、採用時の判断をより適切に行えるのです。
加えて、リファラル採用で入社した社員の定着率は、一般の採用と比べて高い傾向にあります。紹介者から会社の実情を事前に聞いているため、入社後のギャップが生じにくいことがその理由の1つです。また、職場に知人がいることで、初期の適応がスムーズになることも見逃せません。
即戦力人材の獲得
即戦力となる人材の獲得も、リファラル採用の大きなメリットです。特に専門性の高い職種では、社員の個人的なネットワークが、優秀な人材へのアクセスを可能にします。
従業員は自社で活躍するために必要なスキルセットを理解しているため、それに合致した人材を推薦してくれる可能性が高くなります。経験者採用で即戦力を求める場合はもちろん、ポテンシャル採用においても、紹介者の目利きを信頼できるのがリファラル採用の強みです。
採用コストと工数の削減
採用コストの削減も見逃せません。求人広告の掲載や、説明会の開催など、通常の採用活動には多額の費用がかかります。しかしリファラル採用であれば、これらのコストを大幅に抑えられる可能性があります。
社員からの紹介であれば、企業理解度の高い応募者が集まるため、説明会の開催頻度を減らせたり、そもそも不要になったりするケースもあります。採用工数の削減にもつながるため、人事担当者の負荷軽減という副次的な効果も期待できます。
通常の採用では届きにくい人材へのアプローチ
通常の採用では届きにくい人材へのアプローチも、リファラル採用の大きな魅力です。転職に積極的でない人材、いわゆるパッシブ層は、求人広告では獲得しにくい層です。しかし、リファラル採用では社員の紹介を通じて、このようなパッシブ層にもアプローチできる可能性が高まります。
「友人から聞いて興味を持った」という動機は、受動的なアプローチでは生まれにくいものです。人材の流動性が高まる中で、パッシブ層を含めた幅広い人材獲得ルートを持つことは、企業の採用力強化に直結するでしょう。
リファラル採用を成功させる進め方
リファラル採用を導入するメリットは大きいものの、運用面での工夫は欠かせません。ここでは、リファラル採用を成功に導くための進め方のポイントを3つ解説します。

社内でのリファラル採用制度の設計と周知
まずは社内でリファラル採用制度を適切に設計し、周知することが重要です。紹介の対象となる職種や、報酬の金額・支給条件など、制度の骨格を明確に定義づける必要があります。加えて、リファラル採用の位置づけや意義を社内で共有し、従業員の理解を得ることも欠かせません。
特に留意したいのが、リファラル採用があくまで通常採用の一環であることの周知徹底です。「紹介さえすれば採用してもらえる」といった誤解を防ぎ、あくまで推薦者と被推薦者の間に一定の距離を置く姿勢を明示することが求められます。
適切な紹介報酬(インセンティブ)の設定
適切な紹介報酬の設定も重要なポイントです。報酬は、従業員の紹介活動に対するインセンティブとして機能しますが、高すぎては職業安定法との関係が問題になります。
多くの会社では数万円〜30万円ほどが設定されていることがほとんどです。
金額の設定には客観的な基準を設け、社内での公平性を担保することが求められます。一定の社会水準を踏まえつつ、自社の報酬制度全体とのバランスを考慮しましょう。
あくまで紹介活動そのものへの対価として支払うスタンスを堅持することが、適切な運用のカギを握ります。
紹介候補者とのコミュニケーションと採用プロセス
紹介候補者とのコミュニケーションや、採用プロセスの適正化にも目を配りましょう。候補者に対しては、リファラル採用であっても選考基準に違いはないことを丁寧に説明する必要があります。
社内の誰かに推薦されたからといって特別扱いはせず、通常の採用プロセスと同様の評価を行うことが重要です。公平公正な採用の姿勢を貫くことで、リファラル採用への社内外の信頼を高めることができるでしょう。
また、紹介者に対するフィードバックも忘れてはなりません。結果の如何にかかわらず、推薦への感謝の意を示すとともに、採否の理由を丁寧に説明することが求められます。
リファラル採用の注意点
リファラル採用の注意点についても、しっかりと理解しておく必要があります。ここでは、3つの主要な注意点を解説します。
採用手法をリファラル採用だけに限定しない
1つ目の注意点は、採用手法をリファラル採用だけに限定しないことです。リファラル採用には様々なメリットがありますが、それだけに頼りすぎるのは危険です。
多様な人材を獲得するには、複数の採用チャネルを併用することが欠かせません。リファラル採用はあくまで採用手法の1つと位置づけ、バランスを取ることが重要だといえます。
紹介者と候補者の関係性への配慮を行う
2つ目は、紹介者と候補者の関係性への配慮です。リファラル採用では、社員の個人的な人間関係が介在するため、慎重な対応が求められます。
特に、不採用となったケースでのフォローは重要です。紹介者と候補者の関係性を損ねることのないよう、丁寧な説明とフォローを心がけましょう。
また、候補者を紹介した社員が退職するケースへの備えも必要です。単に1人の社員の紹介で入社しただけの状態では、モチベーション維持が難しくなる恐れがあります。日頃から組織への定着を促す施策を講じておくことが求められます。
長期的に取り組む
3つ目は、長期的に取り組むことの重要性です。リファラル採用の効果を最大限に引き出すには、一時的な取り組みでは不十分です。
特に転職に積極的ではない層へのアプローチは、短期的な成果を求めにくいものです。採用という枠を超えて、自社への認知や興味を高める地道な活動が必要となります。
加えて、社内での理解浸透にも時間がかかるでしょう。リファラル採用の意義を継続的に訴求し、推薦の動機づけを高める努力を怠ってはなりません。
まとめ
リファラル採用は、社員の紹介を通じて優秀な人材を獲得する注目の手法です。
採用ミスマッチの防止や即戦力人材の獲得、コスト削減などのメリットがある一方、人材の偏りや紹介者との関係性への配慮、長期的な取り組みが必要となります。報酬の設定には職業安定法や労働基準法の観点からの適法性確認も欠かせません。
自社に最適なリファラル採用の仕組みを構築し、就業規則への明記や社内周知を徹底することで、採用力強化につなげることができるでしょう。